目次
ついに決着!ファナティオとの戦い
「エンハンス・アーマメント」
キリトの武装完全支配術が発動する。

その直後、まっすぐ前方に向けられた黒い剣の刀身から禍々しい幾筋の闇のようなものが溢れ出してきた。
そして、漆黒の大槍の先端が光を束ねた大槍と接触した。
高熱、高密度の光にさすがの巨樹(ギガスシダー)も圧され、突進する勢いが止まる。
だが、あくまで漆黒の大槍を前へ押しやろうとする。
光と闇の激突は、しばらくの間 拮抗を続けた。

ギガスシダーの特性はとてつもなく重く、硬い。
それ以外に、3つ目の特性が発揮される。ソルスの光を貪欲なまでに吸収し、己の力に変えた。
そして、遂に均衡を打ち破り、巨樹の先端が光源まで達し、天穿剣の切っ先に衝突した。
ファナティオは凄まじい勢いで空中に跳ね上げられ、天蓋まで達し、轟音と共に激突し、創世神話を彩った壁画を粉々に砕いた。
まるで糸を引くように、落ちてきた紫色の鎧の主はもう立ち上がることはなかった。

激闘は終わった!キリトが両膝を床につける。ユージオが直ぐに相棒を支える。そして、もっとも深そうな脇腹に治癒術を発動する。
主だった傷を塞いだが、それでも、天命値の回復はまだまだ足りなかった。
新たな術式を唱える。人から人へと、己の天命を移動させる方法を取ってキリトを回復に導く。

ユージオの体感で半分ほどの天命を流しこんだ時、キリトがうっすらと目を開け、左手でユージオの手を掴み、引き離した。

「ありがとうユージオ、俺はもう大丈夫だ」
「ゴブリン連中にやられた時よりマシさ、それよりあいつが心配だ」
キリトの眼が向けられている先に騎士ファナティオの姿を見つけ、ユージオは唇を噛んだ。
「…キリト……… あいつは…お前を…殺そうとしたんだよ………」
「あいつら(整合騎士たち)だって、たぶんあいつらなりの迷いの中に居るんだ。騎士長って奴に会えば、もう少しその辺のことも解るだろう。ユージオ、お前の完全武装支配術は凄かった。あの騎士たちに勝ったのはお前だ。だからもう、人間としてのファナティオや四旋剣の騎士たちまで憎む必要はないよ」
ファナティオに歩み寄り、間近に観察する。
彼女の全身の傷は、眼を背けたくなるほど酷いものだった。
熱線に貫かれた孔が胸と両脚に四箇所、右腕は氷薔薇の棘に引き裂かれた上に、天穿剣による記憶解放術の最終攻撃の余波に焼かれて、無傷な場所が無いほどである。
特に、キリトのギガスシダーの攻撃を受けた拳ほどの貫通痕は深々と口を開け、最大の惨状を呈していた。
「ユージオ、手伝ってくれ、血が止まらないだ」

二人の天命を与えれば、一時的に回復できるかもしれない。
現状で彼女の命を救うのは、二人より強力な回復術を使える神聖術者の助力か、伝説の霊薬でもなければ不可能だ。
しばし、迷ったすえに、ユージオは言った。
「無理だよ キリト。出血が多すぎる」
「解っている。………でも諦めないで考えれば、何か…方策はある筈だ。ユージオも考えてくれよ、頼む」
「解ってる、解っちゃいるんだ。俺とこの人は、本気で戦った。どっちが勝ってもおかしくない、ギリギリの真剣勝負だった。
でも…この人は、死んだら消えてしまうんだ!
100年以上も生きて、迷って、恋して、苦しんで、そんな魂を、俺が消してしまう訳にはいかない…
だって、俺は…死んでも………」
「えっ?!」
死んでも、なんだというのだろう?人は皆、天命が尽きればその魂は生命の神ステイシアの元に召され、人界からは消滅するのだ。
「聞こえるか騎士長、あんたの副官が死んでしまうぞ!誰でもいい、まだいるんだろう、整合騎士。仲間を助けに来いよ、誰か来てくれよ」
「頼むよ………誰か 見てたら助けてくれ! そうだ、来てくれカーディナル、カーディ………」
突如、キリトが喉が詰まったかのように黙り込んだ。
そして、意を決したかのように胸元から小さな短剣を取り出した。
「そっ…それはダメだキリト!カーディナルさんが、もう予備が無いって!それはアドミニストレータと戦うための……」
「でも、コレを使えば助けられる。助ける手段があるのに、それを使わないなんて………人命に優先順位をつけるなんて、俺にはできない」
キリト、対アドミニストレータ用のカーディナルの短剣を使ってしまう
キリトはファナティオにそっと短剣を突き刺した。

「やれやれ、仕方ない奴じゃな」
「カーディナル、すまない、俺は………」
「今更謝るな。おぬしの戦いぶりをみている時から、こうなるのではないかと思っておった。状況は理解しておる、ファナティオ・シンセシス・ツーの治療は引き受けよう。しかし完全修復には時間が掛かるゆえ、身柄をこちらに引き取るぞ」
声の主がそう告げると同時に、彼女の身体を紫の光が強く輝き消えていった。

「もう蟲どもに気付かれておるゆえ手短に伝えるぞ。あやつが目を醒ます前に最上階に辿り着ければ、短剣を使わずとも排除が可能だ。急げ…残る整合騎士はわずかだ!」
大図書館との間に開いた、不可視の通路が急速に閉じられつつあるのをユージオは感じた。カーディナルの声が遠くなり、気配が搔き消える寸前、空中から光の粒がチカチカと瞬き、それは実体を伴って床に落下した。
瑠璃色の2つの小瓶は強力な回復薬だった。
瞬く間に、キリトに残るキズが消えていく………

昇降係の少女
大扉の奥に存在したのは、階段の見当たらないホールだった。
しばらくすると円盤のエレベーターに乗った少女が降りてきた。
「お待たせしました。何階をご利用でしょうか」
「えっと、じゃあ行ける一番上まで行ってくれ」
と、告げるキリト。
「かしこまりました。それでは80階、雲上庭園まで参ります」
風素を利用した円盤に乗っている途中、キリトはこの少女に質問していた。
少女はこの天職を頂いてから107年になること。
名前は忘れてしまって、皆から昇降係と呼ばれていること。
もし、公理教会がなくなって、この天職から解放されたら、澄み渡る空をこの昇降盤で自由に飛んでみたいという思いがあること。
「お待たせしました。80階、雲上庭園でございます」
ユージオとキリトは会釈して、円盤からテラスに移った。
ユージオは長〜いため息をついていた。
「僕の前の天職も終わりが見えないことにかけては世界で一番だと思っていたけど………」
「年を取って、斧が振れなくなったら、引退できるだけ恵まれていたよね、あの子の天職に比べれば…」
「天命の自然減少を術式で凍結しても魂の老化は防げない。記憶が徐々に侵されていく。最後は崩壊してしまうって、カーディナルが言ってた」
「公理教会のしてることは間違ってる。だから俺たちはアドミニストレータを倒す為ここまで来た。でもそれで終わりじゃないんだ。ユージオ、本当の難題はその先に………」
「えっ!?アドミニストレータを倒せば、あとはカーディナルさんに任せればいいんじゃないの?」
返答に詰まったキリトは「いや、この先はアリスを取り戻してから、話すよ。今は余計なことを考えている場合じゃないもんな」
ユージオとキリトは、左右の重々しい大扉の前に立ち、同時に手を伸ばして、力いっぱい押した。

金木犀の整合騎士、アリスと相見える
キリト達の眼前に広がった景色はセントラル・カセドラル内ということも忘れてしまうものだった。
綺麗な小川が流れ、小川に架かる木橋を経て先に続いている。その先には小高い丘になっていて、一本の樹が生えていて、その根元に一際眩い金色の髪と金色の鎧を纏い佇む姿が………
小川に架かる橋を渡り、上り坂へと差し掛かる。
丘の天辺までは、もう20メルもない。
アリスの右手が、音もなく掲げられ、懐かしい声を響かせる。
「もう少しだけ待ってください。せっかくのいい天気だから、この子にたっぷりと陽を浴びさせてあげたいのです」

剣を抜くどころか、もう一歩もたりとも進めないユージオの葛藤した様子を見ていたキリトは、
「お前は戦うな、ユージオ。カーディナルの短剣を、確実にアリスに刺すことだけを考えるんだ。彼女の攻撃は、俺が体を張ってでも止めてみせる」
「でも………」
「それしかないんだ。戦闘が長引けば長引くほど状況は悪くなる。アリスの初撃を躱さずに受けてそのまま拘束するから、すかさず短剣をつかえ。いいな」
「ごめん………」
「謝らなくていいぞ。すぐ倍にして返してもらうからな。 でも、それはそれとして………」
「いや、ここから見た限りだと、彼女武装してる様子がないぞ。それに…この子って、誰のことなんだ?!」
アリスとの戦闘が始まる。アリスは傍らの樹の幹に右手を添えた。次の一瞬 閃光を放って、丘の天辺に生えていた樹が消滅した。


「しまった、ヤバいぞ。あの剣、まさか、もう完全支配状態なのか」
黄金の剣の刀身が消え、分解し、剣は、幾百、幾千もの小片に分かたれ、金色の突風となってキリトを襲う。
そしてユージオもまるで巨人の掌に張り飛ばされたの如く、右側に倒れ込んだ。
「私を愚弄しているのですか?抜刀もせずに走り寄るなど」
「今の攻撃は、警告の意味を含めて加減しました。ですが次は、天命を全て消し去ります。持てる力を出し尽くしなさい、これまでお前たちが倒した騎士のためにも」
しかし、諦めるということを知らないキリトは、声を出さず小さく唇を動かし、ユージオに告げる。
『詠唱』を開始しろ、 と。
そして、明らかに時間稼ぎの質問をアリスに投げかける。
「剣を交えればどちらかが倒れるのは必定、その前にひとつ教えて欲しい。アリス殿の神器、先刻丘上にあった樹がいにしえの姿と見受けたが、どうしてあのような小樹にそれほどの力が?!」
アリスの説明によれば、ただの小樹だけれども、遥かなる古の時代、創世神ステイシアによって人間に与えられた始まりの地、そこにあった人界の森羅万象の中で最も古き存在。

この剣は、神の創りたもうた樹の転生した姿。属性は《永劫不朽》舞い散る花弁のたった1つですら、触れた石を割り、地を穿つ。
キリトは理解した。神が設置した最初の破壊不能オブジェクトってことが。
あまたの神器の中でも高い優先度を持つ黒い剣でも、アリスの金木犀(キンモクセイ)の剣には敵わない。
おそらく、その威力、重量はキリトの剣の数倍にも上るだろう。一撃、一撃の重さが全く違うのである。
わずか5回の攻防でキリトはたちまち西側の壁に追い詰められた。

「では……覚悟!」
キリトは剣と剣を最小限の角度で接触させ、アリスの途轍もなく重い一撃をほんのわずかに逸らした。
重々しい衝撃とともに金木犀の剣が貫いたのはーーー
キリトの頭 一セン左、大理石の壁だった。
直後、キリトがアリスに飛びかかり、左手で彼女の右手を押さえ、右腕を左腕に絡ませる。
今だ!!!
「エンハンス・アーマメント」
絶叫とともに、ユージオは青薔薇の剣を突き立て、武装完全支配術を発動する。
みるみるうちに分厚い氷に覆われる二人。
一歩、二歩、三………ユージオはカーディナルの短剣をアリスに刺そうと近づいていく。
だが、碧い氷の中に閉じ込めた と思ったのもつかの間、金色の光が爆発して、十字の小刃が渦を巻いて、みるみるうちに氷を削っていく。
花嵐はわずかな厚みだけ残して氷を削り終えると、上空に舞い上がった。
右手を伸ばすと、上空に漂っていた花弁が瞬時に集まって、元の剣の形へと戻って………
次に絶叫したのは、キリトだった
「エンハンス・アーマメント」
狙ったのはアリス本人ではなく、凝集寸前の金木犀の剣だった。
漆黒と金色の入り混じった嵐が吹き荒れ、二本の神器の完全支配術が融合することで生まれた異常な激流が、セントラル・カセドラルの壁を叩き、縦横無数の亀裂を生み出してしまった。
凄まじい振動と爆音を引き連れて、白亜の壁が崩壊し、キリトとアリスは塔の外に吹き飛ばされてしまう。

不思議なことに、外側に落下した筈の大理石の壁石が時間を巻き戻しているように寄り集まり、復旧されていく。

「キリト〜〜! アリスーーーっ!」
ユージオの絶叫を、白く滑らかな大理石が冷たく跳ね返した。

まとめ、感想
原作(ラノベ)にあった、リネルとフィゼルにユージオの整合騎士に対しての尊敬の念をあらわす説教みたいな場面があったのですが、アニメでは省かれていました。
あと、使い魔 蟲のことも。
アリスのことーー金木犀の剣に関しては結局、武器の性能じゃん!って思ってしまう。
そろそろセントラル・カセドラル編も終盤に来ましたね。
残るは、騎士長、元老長。そしてアドミニストレータ?!
ユージオはどうなる?キリトは?